Notes &
天然痘根絶30周年記念
これまで人類が唯一打ち勝った病原菌、天然痘。致死率40%とも言われる凶悪さと強い伝染性で、このファラオは天然痘で死んだとか あの国は天然痘が原因で戦争に負けたーなどなど3000年以上にわたり人類を苦しめたウイルス。ただ「ワクチン」が効果的であるため、1958年WHOが根絶計画を開始。戦争や宗教など幾多の困難を経てついに1980年5月8日、WHOは天然痘根絶を宣言。
我々ボード上のウイルス対策チームにとっても「根絶」は感慨深いもの。そんなわけで、天然痘根絶宣言からちょうど30周年にあたる昨日2010年5月8日、パンデミックオリンピックなるイベントを企画。3人チームで、3時間挑戦し続けていただきチーム力を競っていただきます。根絶記念ということで、勝ち数が同じ場合はよりたくさんウイルスを根絶した場合にアドバンテージをつける調整。
この怪しい企画にどれだけ来てくれるのかなあと思ってたのですが、最終的に10チーム30人が参加、3時間えんえんとゲームをしつづけるという、パンデミックファンとして垂涎の大盛況。イベントも、作者からメッセージもらったり、スポンサーがついたりと豪華な感じにできました。初級→中級→上級と挑戦してもらうので、時間が進むにつれだんだん会場が悲惨な声でいっぱいに。
3時間あっという間ですね。上位3位はなんと無敗!いい感じに進めていたチームがうまく入賞してくれてよかったです。
またなんと1位と2位は勝ち数同点、1位が根絶ウイルス数でわずかに差をつけて勝利するという、すばらしく企画趣旨をよくわかっていただいた勝ち方でありがとうございます、おめでとうございます!
今回はじめて上級に勝てましたっていうチームがあったり、ものすごい自信で来たもののなぜかいつもは勝てるゲームに負けつづけるところがあったり、見てて楽しかったです。あらためてパンデミック、勝っても負けても自分たちが主人公のドラマが起こり、そのドラマをチームで共有できる、すばらしいゲームですね。
未発売ゲームを含む賞品ご提供いただきましたホビージャパン様、ナゾの割引企画に協力していただきましたすごろく屋様、参加者にメッセージくれた作者の Matt Leacock、いろいろ手伝ってくれた主任、そして参加していただいた皆さま、ありがとうございました! またいつか企画いたします!
なんと主任が夜のうちに無駄に勇壮なテーマにのせてダイジェストムービー作成してくれていました。我々スタッフは白衣です。
蟻田先生の講演について (2010/6/2追記)
まあそんなわけで現実に疫病とたたかう先生方がもはやヒーローに見えている私ですが、天然痘根絶プロジェクトのリーダーが日本人でありその蟻田先生が天然痘根絶30周年として講演をなさるとのことで昨日、熊本県まで聞きに行ってまいりました。
講演の中からおもしろかった点いくつかご紹介します。手書きのメモからなので何か違ったらすみません。
- 天然痘ワクチンがジェンナーによる発明であることは有名だが、それは冷蔵保存しないといけないものであった。冷蔵庫がないアフリカなどへも配布できるようになったのは、レスリー・コリエという人の乾燥凍結天然痘ワクチン(暑さに強い)という発明の功績。
- 1967年に世界で10万人が感染していると言われていた。実際は患者が1人出たという所へ行ってみると200人くらいいることがざらであった。なので1000万人はいたのだろうと思う。
- 全人類にワクチンを打てば根絶できるのだが、それは不可能であり根絶計画は不可能であるとも言われた。費用もバカにならない。WHOではたったの2票差で可決された。
- 結成されたチームはコアメンバーが4名、全スタッフ合わせても50名という小規模なものであった。マラリア根絶計画(頓挫)は200名という規模であったことを考えるとこの4人というのがいかに少ないかがわかる。ただいま思えばこの少数精鋭主義が官僚主義にならずに完遂できたことにつながり結果よかったと思う。
- 二又針というワクチン接種の道具があるが、これの特許を持っていたアメリカのYSラボはWHOに特例的に特許無しで提供してくれた偉い。これはワクチン量が少なくてすむこと(5分の1)また20分教えれば現地の人でも接種作業ができるというよいものだった。
- 全員にワクチン接種という方法は早々に不可能であることがわかったのだけど、チームのヘンダーソンが3ヶ月ある西アフリカの村を調査した結果、患者は10メートル四方に集中することが判明した。これにより、患者の周りの住人のみ集中的にワクチン接種を行うことで封じ込めができるという作戦が開発された。この作戦がその後大きく弾みをつけるものとなる。こういう科学的作戦がよかったんだと思う。
- インドはずっと全国民ワクチン接種方式をとっていたが、なかなか患者が減らなかった。ヘンダーソン方式にかえるよう提言したが政府は一度決めたものを変えるのはなかなかできなかった。そんなある年のWHO総会でインド代表が、うちアフリカとかに国際援助をしたいかもと発言。そのときガーナ代表が、うちは3年前に天然痘を根絶した、天然痘根絶もできてない国に何ができるのかと発言。それを聞いたインド首相インドラガンジーが激怒、ヘンダーソン方式の徹底という新作戦に急転換。それはインドの全保健所が1ヶ月のうち1週間業務を休み天然痘患者の発見とその周囲50家屋へのワクチン接種の徹底活動に充てるというもの。患者発見者には100ルピーという懸賞金も出した。これにより2年後には患者ゼロとなる。
- バングラディシュでは1970年に一度ゼロになるが、インド=パキスタン戦争により患者が流入し復活してしまう。
- 西アフリカから根絶したと思っていたら、天然痘によく似た患者が発見される。それは猿疱瘡(monkeypox)であった。青くなったが、これは研究によりヒトヒト感染しないと判明し一同胸をなでおろす。
- ついに1976年、患者はエチオピアのみとなる。ところが隣国ソマリアでも発見される。とここにきて予算枯渇。ソマリア政府に援助を求めるもエチオピアと戦争中だから不可という。このときは国連災害援助本部というところが車16台、2週間で5000万円という費用を緊急支援してくれた。
- ソマリアやエチオピアではゲリラにつかまったりもする。何とか説得してワクチン接種して戻ってくることができた。
- そしてついにソマリアで結果最後の患者となる人物が発見される。その後は、根絶確認委員会が組まれる。
- 中国に根絶確認作業で入ろうとしたら、それはうちへの侮辱かと拒否される。疫病学の大家の進言などあってようやっと確認させてもらえる。
- 1978年、WHOは天然痘患者発見に1000ドルの賞金をかけた。すると毎日のように主に空港から連絡が。われわれはすべて逐一調べたが、すべて天然痘ではなかった。この1000ドルの賞金は結局使わないですんだ。そしてWHOは1980年5月に天然痘根絶を宣言。
- 最終的に、この13年のプロジェクトにかかった費用は30億円。これはそうとう少ない。しかも1981年以降は、ワクチンが不要になるとかで世界は”毎年”1000億円の節約となっている。
- アメリカで Dark Winter というレポートが2001年6月に出された。仮にテロで天然痘が空中散布されたらという試算で、それによると3ヶ月で300万人が感染、100万人が死亡する試算だった。同年9月11日、飛行機テロがあり、それをきっかけにアメリカがイラクに戦争するわけだけど、Dark Winter が報告されていたことも要因のひとつとなった。
かなりのお年と思うのですけど、原稿も見ずに話される。あの時あんなこともあった、こんなこともあったと次々出てくる話がどれもたいへん興味深くてやばい。改めてこれが人類の偉業であると再認識。日本人オリンピック選手や宇宙飛行士とか注目されますけど、こうしたプロジェクトのリーダーが日本人だったってことをもっとみんな知るべきじゃないかと思いました。
そもそも天然痘ってどんな病気か、いまでは知らない人が多いんじゃないかな。日本では第一類から第五類まで疫病を分類してますけど、天然痘はエボラ出欠熱やペストと並ぶもっとも危険な第一類感染症7つのうちの一つ。あと致死率はもとより、患者の姿がたいへんむごいです(見たい人)。
知らないと映画のメイクじゃないかと思いそうなビジュアルですよね。
あとWHO本部の庭に、30周年記念で銅像が建てられたらしいですね。